企業が新しいWebサイトを立ち上げたり、既存サイトをリニューアルしたりする際に、必ずと言っていいほど関わってくる専門職のひとつに「アートディレクター」があります。
「デザイナーとはどう違うの?」「クリエイティブディレクターと混同してしまう」といった疑問を持たれる方も多いかもしれません。特に、BtoBサービスを展開している企業のWeb担当者にとっては、外部の制作会社に依頼するときに「アートディレクター」という肩書きをよく目にするものの、実際にどのような役割を果たしているのか分かりにくい存在です。
この記事では、アートディレクターの基本的な役割や求められるスキル、そしてWeb制作における重要性を、できるだけ分かりやすく解説していきます。
アートディレクターとは?
アートディレクター(Art Director)は、広告やWeb、印刷物、映像などの制作現場において、ビジュアル面の総合的な指揮をとる役職です。
デザインそのものを手がけるだけではなく、
• コンセプトをどう見せるか
• 誰に向けて、どんな印象を与えるべきか
• デザイナーやカメラマンにどう指示を出すか
といった、全体像を考えた上でビジュアル表現を導き出します。
例えば「新しい製品を発表するWebサイト」を制作する場合、アートディレクターは次のようなことを担当します。
• ブランドの世界観を表現するデザインコンセプトの立案
• 配色やフォント、レイアウトの方向性の決定
• 写真撮影やイラスト制作の監修
• デザイナー・コーダー・カメラマン・ライターなど関係者への指示出し
つまり「見た目を整える人」ではなく、全体のトーンや印象をコントロールし、最終的に一貫したビジュアルを作り上げる人がアートディレクターなのです。
デザイナーとの違い
しばしば「デザイナーと何が違うのか?」と疑問に思われることがあります。
• デザイナー
具体的にビジュアルを形にする実務を担当。Webデザイナーであればバナーやページデザインを作り、グラフィックデザイナーであれば広告のレイアウトを作成します。
• アートディレクター
制作物全体の方向性を示し、複数のデザイナーやクリエイターをまとめながら「最終的にどんな世界観に仕上げるか」を管理します。
言い換えると、**デザイナーが「演奏者」なら、アートディレクターは「指揮者」**のような存在です。
クリエイティブディレクターとの違い
もう一つ混同されやすいのが「クリエイティブディレクター」です。
• クリエイティブディレクターは、広告や制作物の全体戦略を統括する役割。ビジュアルだけでなく、コピーライティング、メディア戦略、予算配分など、プロジェクト全体を管理します。
• アートディレクターは、その中でも特に「ビジュアル表現」にフォーカスしてディレクションします。
例えば、新製品のキャンペーンWebサイトを作るとき、クリエイティブディレクターが「ターゲットは20代後半の女性で、SNSで話題になる仕掛けを作りたい」と全体戦略を決め、アートディレクターは「そのために淡い色調を基調としたデザインにしよう」「撮影は自然光を活かして柔らかい雰囲気を出そう」と具体的なビジュアル面を決めていくイメージです。
アートディレクターに求められるスキル
アートディレクターは単なる「デザインが上手い人」では務まりません。以下のようなスキルが求められます。
1. デザインスキル
ベースとして、デザインの知識や実務経験が必要です。配色理論、タイポグラフィ、レイアウト、UI/UXなど、幅広い知識を持つことでチームに的確な指示が出せます。
2. ディレクション能力
複数のデザイナーや関係者をまとめるためには、スケジュール管理や指示の明確化が欠かせません。「誰に、何を、いつまでにやってもらうか」を整理する能力が必須です
3. コミュニケーション力
クライアントの意図を正確に理解し、さらに制作チームにわかりやすく伝える力。ときには営業や経営層と対話しながら「企業のビジネスゴール」をクリエイティブに落とし込む役割も担います。
4. ビジネス理解
BtoBのWeb制作では「見た目が良い」だけでは意味がありません。ユーザーが必要な情報にたどり着けるか、企業のブランディングに貢献できるか、といったビジネス的な成果を意識することが求められます。
Web制作におけるアートディレクターの重要性
では、BtoB企業がWeb制作を依頼する際に、なぜアートディレクターが重要なのでしょうか?
一貫性のあるデザインを実現できる
複数のページやバナー、資料などを制作する場合、担当者がバラバラだと「なんとなく統一感がない」仕上がりになりがちです。アートディレクターが関わることで、企業ブランドとして一貫性のある表現が可能になります。
ユーザー視点でのデザイン調整
単に「かっこいい」だけではなく、「情報が探しやすい」「読みやすい」といったユーザー体験を考慮したデザインに導けるのもアートディレクターの役割です。
例えば、BtoB企業の製品カタログをWebサイトで展開する場合、「製品カテゴリごとの色分け」「検索機能と合わせたUI」「技術資料PDFへの導線設計」など、使いやすさを考慮した工夫が必要です。こうした部分を調整できるのがアートディレクターです。
経営層の意図をデザインに反映できる
経営者が掲げる「ブランドを高級志向にしたい」「グローバル展開を意識したい」といった方針を、Webデザインという形で表現するのもアートディレクターの役目です。単なるデザインではなく、企業戦略をビジュアルで翻訳する存在と言えます。
具体例:アートディレクターが関わったWeb制作プロジェクト
例えば、ある製造業の企業が海外向けに新しいWebサイトを制作した事例を考えてみましょう。
• 経営陣の要望:「グローバルで戦えるブランドを打ち出したい」
• Web担当者の課題:「製品情報が複雑で、ユーザーが情報を探しにくい」
この場合、アートディレクターは次のような工夫をしました。
• グローバル企業らしい「洗練されたシンプルな配色」と「余白を活かしたレイアウト」を採用
• 製品を用途別に整理し、色とアイコンでカテゴリ分け
• 写真撮影を監修し、工場の現場感と先進性を両立させるビジュアルを構築
結果、Webサイトは「見やすく、国際的なブランド力を感じる」仕上がりとなり、海外からの問い合わせ数が増加しました。
まとめ:アートディレクターは「企業のビジュアル戦略の要」
アートディレクターは、単にデザインを監修する人ではなく、企業の戦略をビジュアルで具現化し、ユーザー体験を最適化する存在です。
BtoBサービスを展開する企業がWeb制作を外部に依頼する際、制作会社にアートディレクターがいるかどうかで、成果は大きく変わってきます。
• 統一感のあるブランド表現ができる
• ユーザー目線での情報設計が実現できる
• 経営戦略をデザインに落とし込める
これらを考えると、アートディレクターは「Web制作の成功を左右するキーパーソン」と言っても過言ではありません。